そう言うと一礼する

ります」

そう言うと一礼する。山南は僅かに笑みを浮かべた。それを見た沖田は感情を堪えるように唾を呑み、小さく息を吐く。

沖田は背後に回ると刀を清め、香港 信託 公司 排名 その切っ先を天へ向ける。

手が震えてしまいそうになるが、仕損じれば痛みを伴うのはこの優しい の誓いが視線を通して流れる。

そこへ沖田が現れた。

「…山南敬助総長。此度の介錯の名誉は、沖田総司が だ。いくら控えの介添人に斎藤が居るとしても、自分で志願したのだから無様な真似は出来ない。

そう思った沖田は全神経を刀へ寄せた。

それを背後に感じた山南は右側から肌脱ぎをする。左手で腹を軽く撫でると、短刀を手に取った。

その刹那、僅かに開いた障子の隙間から梅の香りが鼻腔を掠める。

“ああ、もう春が来たのだ。”

左腹に刃を突き立てながら、山南はその様なことを思う。そして目を瞑った。

──あの日、皆と見た京で身を立てる夢。

私は先に降りてしまうけれど

悔いはないのです。

決して楽な人生ではなかったけれど

悔いはないのです。

心残りがあるとすれば

おさと、貴女を遺していってしまうこと

勝手な男で済みませんでした。

我儘を一つだけ申しても良いのなら

最期の夢は貴女と笑い合う夢が見たい───

まるで椿の花が風に揺れて落ちるように、介錯人の沖田は山南の首を寸分の狂いも無く落とす。

それは見ていた誰もが涙するような、立派な切腹だった。

啜り泣く声が何処からともなく聞こえてくる。

山南の最期の表情は柔和に微笑んでいた。まるで幸せな夢を見ているかのようなそれだったという。

山南敬助      齢三十二  脱走の罪により切腹。山南の首を落とした後、沖田は呆然と立ち尽くしていた。

まるで時が止まってしまったかのように、息をすることも忘れてその首を見詰める。

「……沖田さん」

介添人として控えていた斎藤が沖田の肩をそっと叩いた。その瞬間、沖田は気付くように息を吸った。

胸元に手を当てて大きく咳き込む。乾いた嫌な咳だった。

斎藤が背を摩ろうとするのを手で制し、血の付いた刀を押し付けると部屋から走って出て行く。

誰かの呼ぶ声が聞こえた気がしたが、全く気に止める余裕は無かった。

弔うように静かに降り続く雪の中を、裸足で庭に降りる。心を堰き止めていた思いが、腹の底から掻き立てるようにせり上がってきた。

手で口元を覆い、ふらふらと門を潜る。

とにかく一人になりたかった。足先の体温が奪われていくことなんて気にもならない。

沖田はそのまま壬生寺の前まで歩いた。雪化粧に包まれているが、顔を上げれば優しい兄と子どもたちと共に遊んだ記憶が次々と浮かぶ。

顔を歪めて肩を揺らした。込み上げてきたのは、 と熱い涙である。

「山南、さん…。山南さん……ッ」

名を呼ぶが、もう山南はこの世には居ない。

先程自分で首を切り落としたのだ。

ぽろぽろと涙が首元まで伝い、冷気に晒されたそれは沖田の体温を奪っていく。

沖田は初めて人を斬って泣いた。新撰組の為、近藤の為だからと感情を殺して人を殺めてきた。そしてこれからもそうすることでしか生きられないのだろう。

人を斬るということがこの様にも苦しく、重たいということに今更気付いた自分が嫌になった。

雪を踏み締め、式台まで歩く。足の裏は霜焼けになってしまうのでは無いかと言う程、真っ赤になっていた。

Published
Categorized as Journal